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京都地方裁判所 昭和34年(行)21号 判決

原告

糸井宇右衛門

被告

京都府教育委員会

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

(原告の求める裁判)

一、原告と被告京都府教育委員会との間において、同被告が昭和三四年一二月七日原告に対してした三カ月間給料額の一〇分の一を減給する旨の懲戒処分は無効であることを確認する。

二、かりに前項の請求が認容されない場合は、原告と被告京都府教育委員会との間において、同被告が原告に対してした前記処分を取り消す。

三、被告京都府は、原告に対し、金三一四、五五〇円およびうち金三〇〇、〇〇〇円に対する昭和三四年一二月八日から、うち金一四、五五〇円に対する昭和三五年五月一〇日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

四、訴訟費用は、被告らの負担とする。

(原告の請求原因)

一、原告は昭和三〇年四月一日から昭和三五年三月三一日まで京都府立山城高等学校定時制の教諭として勤務していたものであるが、昭和三四年一二月七日被告京都府教育委員会(以下「被告委員会」という。)から「昭和三四年六月二五日に行われたいわゆる一斉早退闘争に際し、校長の事前の注意、警告を無視して休暇届を提出して、校長が承認しないにもかかわらず無断で本人が行うべき第一時限の授業を行わずその職務を怠つた。」との処分理由により三カ月間給料額の一〇分の一を減給する旨の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)を受けた。

二、しかしながら、原告は、本件懲戒処分の理由となつていること

をしたことがない。したがつて、原告は、地方公務員法第二九条第一項に該当する行為をしていない。

(1)  よつて、本件懲戒処分は同法第二七条第一項および第三項に違反しており、この瑕疵は明白かつ重大であるから、右処分は無効であるが、被告委員会はこれを認めようとしないので、原告は、同被告に対し、その無効確認を求める。

(2)  かりに右違法事由が無効原因たる瑕疵に該当しないとしても、それは取消原因たる瑕疵に該当するから、本件懲戒処分は取り消されるべきである。なお、原告は給料生活者であり、右処分を受けたため本人および家族の生活は非常に危殆に瀕することになるので、訴願の裁決を経ることにより著しい損害を生ずるおそれがある。よつて、予備的に、原告は、被告委員会に対し、本件懲戒処分の取消を求める。

三、被告委員会はその指揮監督下にある同委員会教育長が昭和三四年六月二五日その事務局長をつかわして原告を給食費会計処理問題で調査中であつたのであるから、当然原告が一斉早退闘争に参加していなかつたことを了知しながら、あえて本件懲戒処分をすることにより故意に原告の名誉を傷つけた。かりにそうでないとしても、およそ行政官庁が職員に対して本件懲戒処分のような不利益処分をするにあたつては、職員の名誉等を害しないよう十分事実の有無を精査、確認したうえ判断すべき職務上の注意義務があるのにかかわらず、被告委員会はこれを怠り、他の職員が一斉早退闘争に参加したから原告も参加したであろうと漫然と考えて原告に対して本件懲戒処分をするにいたつたものであり、著しく注意義務に違背した重過失がある。

そして、被告委員会は被告京都府の執行機関であるから、被告京都府は被告委員会がその公権を行使してその職務を行なうにつき職員その他に加えた損害を国家賠償法第一条により賠償すべき責を負う。

四、よつて、原告は、被告委員会の公権力の行使である本件懲戒処分により不法に精神的若痛を受け、精神上すくなくとも金三〇〇、〇〇〇円に相当する損害をこうむつたのであるから、被告京都府に対し、右金三〇〇、〇〇〇円およびこれに対する不法行為日である昭和三四年一二月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、原告は本件懲戒処分により昭和三五年二月一〇日から同年五月一〇日までの三カ月間原告の給料月額金四八、五〇〇円の一〇分の一に該当する金額合計金一四、五五〇円の減給を受けたから、本来の給料請求権に基づいて、被告京都府に対し、右金一四、五五〇円およびこれに対する支払期の後である昭和三五年五月一〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告らの主張に対する原告の答弁)

一、被告らの主張二の(1)の事実のうち、昭和三四年六月二五日日教組の指令にしたがい、被告ら主張の争議目的で全国的に一斉休暇闘争が行われ、山城定時制分会もこれに参加し、争議手段として年次有給休暇を請求し、第一時限の授業を三〇分間カツトしたことは認めるが、その他の事実は否認する。同二の(2)の事実のうち、原告が当時山城定時制分会の組合員であつたことは認めるが、その他の事実は否認する。同二の(3)の事実のうち、原告が昭和三四年六月二五日西陣荘において被告ら主張の職員からその主張のような問題について質問調査を受けたことおよび当日被告ら主張の自動車に乗車して西陣荘を出発したことは認めるが、その他の事実は否認する。同二の(4)および(5)の事実は否認する。

二、昭和三四年六月二五日前後の原告の行動の詳細は、つぎのとおりである。

(1)  原告は山城高等学校定時制の給食費会計処理問題について、昭和三四年六月二二日と同月二五日には西陣荘において被告委員会の調査、同月二三日には京都地方検察庁において検事の取調を受け、同月二四日には疲労のため終日自宅において就寝していた状態であつたから、当時山城定時制分会の会合にはとうてい参加できず、同分会は、原告に対しては同月二四日の分会会議開催の通知をせず、かつ、休暇届提出の要求や闘争参加の呼びかけをしていない。また、学校長の闘争についての事前の注意警告も、原告に対しては全くなかつた。したがつて、原告は、同月二五日に行われたいわゆる一斉早退闘争に参加したこともなく、学校長の注意警告を無視して休暇届を提出したこともないのである。

(2)  原告は昭和三四年六月二五日前記調査終了後午後五時三六分頃被告ら主張の自動車に乗車して西陣荘を出発し、いつもの習慣にしたがつて大将軍で下車したが、当日糖尿症状を呈しており、便意と車中の排気ガスに苦しみ、由城高等学校まで徒歩約一五分を要した。

そして、原告は同日午後五時五〇分頃同校に到着したが、その直後に用便のため約一〇分を費し、職員室で教材準備のうえ同校旧館一館一階一の一教室へ向い、途中早退する一生徒に出会い、その早退を確認してから右教室へ入り、ただちに出欠をとつて授業を開始した。授業開始時刻は、同日午後六時七分頃であつた。結局、原告は、同日午後五時四〇分から午後六時二五分までの第一時限中、午後六時七分から午後六時二五分まで授業を行なつているが、右二七分間の遅刻のうち、約一五分間は原告を午後五時三六分まで西陣荘から出発させなかつた被告委員会の責任によるものであり、その余の時間の経過は必要やむをえない最小限度の時間であり、原告がその遅刻の責任を問われるいわれは全くないのである。なお、原告は、同日第二時限以後は正常に授業を行つており、被告ら主張の闘争を知るにいたつたのは事後においてである。したがつて、昭和三四年六月二五日、学校長が承認しないにもかかわらず、原告が無断でその行うべき第一時限の授業を行わずその職務を怠つたという事実は、全くないのである。

三、よつて、被告らの主張は、失当である。

(被告らの求める裁判)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は、原告の負担とする。

(被告らの答弁および主張)

一、原告の請求原因一の事実は、認める。同二の事実は、否認する。なお、本件懲戒処分は、後述二のとおり適法なものである。同三の事実のうち、被告委員会教育長が原告主張の日その事務局員をつかわして原告を給食費会計処理問題で調査したことおよび被告委員会が被告京都府の執行機関であることは認めるが、その他の事実は否認する。同四の事実のうち、原告が本件懲戒処分により原告主張のとおり合計金一四、五五〇円の減給を受けたことは認めるが、その他の事実は否認する。

二、本件懲戒処分は、被告委員会が原告につぎのような懲戒理由があると認めて適法に行つたものであるから、無効でないことはもちろん、取り消されるべきものでもない。

(1)  昭和三四年六月二五日、日本教職員組合(以下「日教組」という。)の指令にしたがい、安保条約改定反対、勤務評定実施反対等を争議目的として、全国的に一斉休暇闘争が行われ、京都府立高等学校教職員組合山城定時制分会(以下「山城定時制分会」という。)もこれに参加し、争議手段として年次有給休暇を請求し、学校長がこれを承認しないにもかかわらず、第一時限の授業を三〇分間カツトした。

(2)  原告は当時山城定時制分会の組合員であり、おそくとも休暇闘争開始前に年次有給休暇届を作成してこれを山城定時制分会代表森田隆佳に託し、同人が昭和三四年六月二五日原告の分を含め右分会員の休暇届を一括して定時制主事八木茂美(学校長は当日病気のため不在)に提出しようとしたが、受理されなかつた。

(3)  原告は、昭和三四年六月二五日労働省厚生省共済組合京都指定宿泊所西陣荘(以下「西陣荘」という。)において、京都府教育庁管理課長田辺賢一ほか同課の職員から山城高等学校定時制の給食費会計処理問題について質問調査を受けたが、右質問調査は原告担当の第一時限の授業に差支えないよう同日午後五時頃に打切られ、ただちに原告のため自動車の手配がされ、原告は同日午後五時一五分頃井上淳司運転にかかる弥栄自動車株式会社の自動車に乗車して西陣荘を出発し、同日午後五時二〇分頃山城高等学校の校門の手前三〇ないし五〇メートル以内の地点で降車した。

したがつて、原告は、おそくとも同日午後五時五〇分頃には山城高等学校定時制の職員室にいたが、前記闘争に参加する意図をもつて、第一時限の授業のため教室に出なかつた。同時刻頃これを発見した前記八木主事がただちに授業をするよう促したが、原告はこれに応ぜず、そのまま職員室に残り、同日午後六時一〇分(三〇分授業カツトの最終時刻に相当する。)となるや、生徒の出席簿を持つて職員室を出て行つた。

(4)  これより先、学校長は前記闘争を阻止するため事前に原告を含めた教職員に対し注意警告を発していたが、原告の前記各行動を総合して考えると、原告は右注意警告を無視して山城定時制分会の休暇闘争に参加したものと認めざるをえない、なお、原告は、いやしくも右分会の組合員であり、組合の行動を積極的に支持し、かつ、それに参加していたのであるから、ひとり昭和三四年六月二五日の前記闘争についてのみ、事前に全く知らず、事後にはじめて知つたというが如きことは、とうてい考えることができない。

(5)  以上のような原告の行為は、明らかに地方公務員法第二九条第一項に該当し、被告委員会は、その事実を確認のうえ本件懲戒処分をしたのである。

三、よつて、原告の請求は、いずれも失当である。

(原告の証拠関係)

一、原告の提出援用した証拠

甲第一ないし第五号証、甲第六号証の一ないし一四、甲第七ないし第一二号証、検甲第一号証、証人井上淳司、証人森田隆佳、証人鈴木茂(第一、二回)、証人大宅博、証人渡辺昇および証人松本彦也の証言ならびに原告本人尋問(第一、二回)の結果

二、被告ら提出の書証に対する原告の認否

乙第三第五号証の成立は知らない。乙第八号証の成立は認めるが作成者の真意に出たものではない。その他の乙各号証の成立は認める、乙第九号証については原本の存在も認める。

(被告らの証拠関係)

一、被告らの提出援用した証拠

乙第一号証の一ないし五、乙第二ないし第五号証、乙第六、七号証の各一、二、乙第八ないし第一〇号証ならびに証人井上淳司、証人八木茂美、証人川口実、証人小西正己、証人福永安子および証人城喜美夫の証言。

二、原告提出の書証等に対する被告らの認否

甲第四、五号証、甲第六号証の四、八、九、一〇および一四、甲第八号証および甲第一一号証の成立は知らない、甲第一〇号証が原告主張の新聞の切抜であることは認める、その他の甲各号証の成立は認める、検甲第一号証についてはこれと同一内容の出欠数がその当時原告主張の学校に存在していたか否か知らない。

理由

被告委員会が昭和三四年一二月七日、当時京都府立山城高等学校定時制の教諭として勤務していた原告をその主張のような理由により三カ月間給料額の一〇分の一を減給する旨の懲戒処分に付したことは、当事者間に争いがない。

そこで、原告に被告ら主張のような懲戒理由が存在するか否かについて判断する。

昭和三四年六月二五日日教組の指令にしたがい、安保条約改定反対、勤務評定実施等を争議目的として全国的に一斉休暇闘争が行われ、山城定時制分会もこれに参加し、争議手段として年次有給休暇を請求し第一時限の授業を三〇分間カツトしたことおよび原告が当時右分会の組合員であり、当日西陣荘において被告委員会から山城高等学校定時制の給食費会計処理問題について質問調査を受け、夕刻頃井上淳司運転にかかる弥栄自動車株式会社の自動車に乗車して同荘を出発して同校に向つたことは当時者間に争いがなく、この事実と成立に争いがない乙第一号証の一ないし五、乙第二号証、乙第四号証および甲第六号証の一ないし三、五ないし七および一一ないし一三、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められたるから真正な公文書と推定すべき乙第三号証、当裁判所が取寄せた書類であつてその成立につき疑う資料がないから真正に成立したと認める乙第五号証、証人井上淳司、証人八木茂美、証人川口実、証人小西正己、証人城喜義夫および証人森田隆佳(ただし、後記採用しない部分を除く。)の証言ならびに原告本人尋問(第一回)の結果(ただし、後記採用しない部分を除く。)を総合するとつぎの事実を認めることができる。

(1)  京都府教育委員会教育庁は、昭和三四年六月二〇付その頃到達の書面で、各府立学校長に対し、同月二五日実施を企図されていた前示闘争に関し、「教職員が授業打切りにより学校の正常な運営を阻害することは、地方公務員法第三七条に規定する争議行為等の禁止に該当し、明らかな違法行為であるから、これを未然に防止するため、これらの行為を絶対に許さない旨警告し、勤務すべき旨の職務命令を発し、いやしくも休暇を承認し、または、臨時の時間割を組む等のことは戒めるべきである。」との通達を発したところ、山城高等学校副校長(同校長は病気入院中で当時不在であつた。)は、右趣旨に則り同校長名で各教職員あてに警告書を作成し、同校定時制教職員に対しては、同月二三日(この日には原告も授業のため登校した)定時制主事八木茂美にこれを配付させ、同主事は同日原告に対しその机上にこれを置いて配付した。また、同副校長は、生徒のため、同校掲示板に同校長名で同月二四日「明六月二五日は平常の時間で授業を行う。」との掲示をした。

(2)  一方、府立高等学校教職組合は、定期大会において、前示日教組の指令にしたがい、昭和三四年六月二五日の前示闘争に参加することを確認し、さらに、定例市内ブロツク会議において、統一行動の具体的内容として、市内定時制分会員は休暇届を校長に提出して第一時限を三〇分カツトし、円山音楽堂における京都地評主催の決起集会に参加することを決めた。山城定時制分会においては、同分会長代理森田隆佳が同月二三日職員室の黒板に召集掲示を行つて翌二四日午後四時頃から午後五時三〇分頃まで分会会議を開き、翌二五日の第一時限三〇分カツトの休暇闘争に出席者全員の参加を確認し、各休暇届はおそくとも右闘争開始時刻前までに右森田のもとに集計された。

(3)  山城定時制分会の組合員であつた原告は、従来組合の行動を積極的に支持し、それに参加していたものであるが、前示闘争に際しては、当時前示給食費会計処理問題について被告委員会および京都地方検察庁の調査取調を受け、心身ともに疲労していたため、主導的には、行動していなかつたけれどもつぎのような行動に出た。

(4)  原告は、昭和三四年六月二五日西陣荘において、前示問題について、京都府教育庁管理課長等から質問調査を受けていたが、同課長らは原告が当日午後五時四〇分開始の第一時限の授業を担当していることを知つていたので、右授業に支障がないよう同日午後五時頃にはその質問調査を終了させ、自動車を手配して同五時一五分頃までには原告を前示自動車に乗車させて同荘から山城高等学校に向けて出発させたところ、原告は、同五時二〇分頃右自動車を同校の玄関に横づけさせることなく、同校の校門の手前付近で降車し、そこから徒歩で同校に向い、おそくとも同五時五〇分頃には同校定時制の職員室に到着して授業に出られる状態にあつたにもかかわらず、職員室にとどまつていて同時刻頃同校定時制主事八木茂美に発見された。

(5)  同主事は、これよりさき同日午後五時三五分頃職員室において在室した教職員に対し第一時限を遅刻のないように開始するよう注意し、同五時四五分頃放送で生徒に対し当日平常通りに授業を行う旨指示し、その直後前示森田から分会員の各休暇届を示されてその受領を拒絶し、ただちに職員室に赴き、同五時五〇分頃在室した第一時限授業担当の右森田および渡辺昇とともに原告に対してもただちに授業をするように促したが、原告らはこれに応ぜず、そのまま職員室に残り、三〇分授業カツトの最終時刻である同六時一〇分にいたると生徒の出席簿を持つて職員室を出て行つた。

(6)  京都府教育委員会教育長は、昭和三四年七月六日付その頃到達の書面で、各府立学校長に対し、前示闘争の実態を調査報告するよう依頼し、被告委員会はその調査報告に基づいて事実を確認のうえ、本件懲戒処分に及んだ。

以上認定に反する証人鈴木茂(第一、二回)、証人大宅博、証人渡辺昇、証人松本彦也および証人森田隆佳ならびに原告本人(第一回)の供述部分は、前掲各証拠に照らして採用することができず、その他に右認定を動かす足りる証拠はない。

そして以上認定の事実関係によれば、原告は前記分会の闘争実施を察知しこれに参加する意図で、前記警告書もその趣旨を察知しながら敢てこれを無視し、前認定の行動に出でたものと認定するのが相当であり、原告が前記教諭の職にある以上、その本来の職務である生徒の授業をカツトするが如きは関係法規の禁止するところであることを当然知つていたというべきであるから、右分会がその闘争について原告をもこれに参加させる意図をもちそのように積極的に行動したことはこれを認むべき証拠がなく、また、前記八木主事が示された休暇届のうちに原告作成の分が含まれていたことも、この点に関する証人八木茂美の証言はたやすく措信できず、他にこれを認むべき証拠がなく、更に、原告がその机上に配付せられ、その趣旨を察知した前記警告書の内容を仔細に読んだことも認むべき証拠がなく、そして前認定にかかる原告が西陣荘で乗車した自動車を学校の玄関に横づけせずに同日午後五時二〇分頃下車したことについての理由及びその後同日午後五時五〇分頃までの行動が、健康上その他原告主張のようなものであつたことは、原告本人がその旨供述するけれどもたやすく措信し難く、他にその真否を決すべき証拠はないけれども、「当日午後五時五〇分頃から同六時一〇分頃までの原告の前記行動は分会の闘争に参加して授業カツトを行つたものに外ならず、右は明らかに地方公務員法第二九条第一項の懲戒事由に該当するものというべきであり、かつ、被告委員会が原告にいかなる程度の懲戒処分をすべきかは、同被告の自由裁量に委ねられているところ、原告の右行為は生徒の授業に支障を生ぜしめ、教育上に及ぼした影響は重大であるから、同被告が減給という本件懲戒処分を選択したことは、右裁量の範囲を逸脱するものではないというべきであり、」なお、原告と同程度或はそれ以上に、前記闘争に参加した者が如何なる処分を受けたかは、本件全証拠によつても知るに足る資料となるものがないけれども、たとえ右の者のうちで処分を受けず或は原告よりも軽い処分を受けた者があるとしても、右はもとより被告委員会の裁量に属することであつて、それがために原告に対する本件処分を違法ならしめるいわれのないことはいう迄もなく、結局本件懲戒処分は適法で、無効および取消原因となる瑕疵をもたないから、同被告に対する請求は、いずれも失当である。

そして、前示のとおり本件懲戒処分にはなんらの違法性がない以上、その違法を前提として被告京都府に対し損害賠償等を求める請求も、失当である。

よつて、原告の被告らに対する本訴請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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